「中部日本の地殻構造とアクティブ・テクトニクス」

千葉大学大学院教授 伊藤谷生氏

平成22年11月19日(金)14時から
東京地学協会講堂において

要旨
アクティブ・テクトニクスを論じる際に、“更地”の地殻に対して地表面上の境界に沿うプレート相対運動が作用するという方法論ではその本質に迫ることはできない。特に、中部日本のように中期中新世の日本海拡大と伊豆弧衝突に伴って大規模な地質構造改変が行われたことが地質図上からも予想されるところにおいては、地殻は無構造の均質な“更地”ではあり得ない。一方、最近の地震学的研究が明らかにしつつあるように中部日本下フィリピン海プレートの形状は大きく波曲しており、地表面上でのプレート境界に注目するのみでその運動の効果・影響を解明することは不可能であろう。従って、テクトニクスを事実に基づく研究対象とするためには、中部日本下、地殻からフィリピン海プレートに至るまでの深部構造を解明する作業がまず何よりも先行されなければならないのである。こうした見地から、地震学的手法による2つの大規模な深部構造探査が2008~2009年に実施された。1つは中部日本南東縁、糸静線から南―中央アルプスを横断するものであり、もう1つは北西縁、琵琶湖北方から郡上八幡西方に至るものである。取得されたデータの処理はなお進行中ではあるが、本講演においては現在までに得られている成果を紹介するとともに、地質構造形成史復元の上に立ってアクティブ・テクトニクスを議論する。