第259回地学クラブ講演会
「伊豆衝突帯における地殻の再生」

田村芳彦氏(海洋研究開発機構・地球内部ダイナミクス領域)

平成22年6月18日(金)午後2時から
東京地学協会講堂

(要旨)
伊豆小笠原マリアナ弧は、全長2800kmの長大な、かつ典型的な海洋性島弧である。この海洋性島弧は始新世に誕生し、島弧地殻は約5千万年かけて成長してきた。現在の島弧地殻の多くの部分は中新世以前(始新世・漸新世)にすでに形成されていたことが明らかになっている。その最北端部が本州弧と衝突している。衝突帯においては、伊豆小笠原弧の中部地殻が甲府かこう岩体、丹沢岩体などの深成岩体として露出しているといわれてきた。
伊豆衝突帯には不思議な年代ジレンマがある。中部地殻と称される深成岩体はすべて中新世以降の新しい年代を示す。それでは始新世・漸新世に形成された伊豆弧の地殻は衝突によってどこに消えてしまったのか。この問題解決のため、伊豆小笠原マリアナ弧の始新世・漸新世の火山岩の主要元素、微量元素、およびSr-Nd同位体組成を中新世〜第四紀の火山岩類と比較し、かつそれらを衝突帯の深成岩組成とも比較してみた。驚くべきことに、衝突帯に出現する中新世の深成岩類は、伊豆小笠原マリアナ弧の始新世・漸新世の火山岩とほぼ同じ組成を持つことが判明した。
我々は以下のような仮説を立てた。伊豆弧の地殻は衝突し、本州の下に沈み込む。現在、衝突帯を越えて、フィリピン海プレートは本州弧の下へ約200 km 沈み込んでいる。実験によると伊豆弧の中部地殻を形成するシリカ〜60%のトーナル岩は深さ数十㎞、温度約900度で約20パーセント融解する。しかし、はんれい岩や集積岩で形成されている下部地殻は900度程度の温度では溶けない。本州弧の下に沈み込み、かつ広範に部分融解した中部地殻は,堅牢な下部地殻から剥がれて上昇し、甲府岩体、丹沢岩体として上部地殻に貫入し、地表に出現した。これらの深成岩体の“年代”は、衝突後、部分融解した岩体が上昇して冷却し、部分融解液(マグマの液体の部分)から角閃石、黒雲母、ジルコンなどが新たに晶出した年代である。沈み込んだプレートの地殻部分は、衝突帯において上部および中部地殻を失った伊豆弧の下部地殻であることが予想される。