Home ニュース 講演会・地学クラブ開催報告 地学クラブ第303回講演会報告
開催概要:「最近の助成研究から」と題して、東京地学協会調査・研究助成金による研究にその後の研究も加えて研究成果をお話しいただいた。なお、講演の順序が変更になり、希望の講演を聴けない方が出てしまったことをお詫びいたします。
日時:平成29年12月15日(金)
14:30~16:45
場所:アルカディア市ヶ谷7階妙高の間(東京都千代田区九段北4-2-25)
参加者数:21名
講演内容:
講演1
「トンレサップ湖の拡大が洪水特性および微地形の形成に与える影響に関する研究」

南雲直子(土木研究所)

 カンボジア中央部に位置するトンレサップ湖岸域において、トンレサップ水系で最大の流域面積を持つセン川で実施した現地調査結果から、セン川の水位・流量と湖水位の季節変化、及び、数千年単位の環境変動が湖岸の地形特性や地域の住み方、流入河川の洪水・土砂輸送に及ぼす影響を明らかにしました。これまでに下流域の氾濫原で実施したボーリング調査では、完新世の夏季モンスーン強度の変化に同調するように堆積環境が変化した可能性が明らかとなり、乾季の河床に出現するチャネルバーの発達においては、蛇行流路の形状に加え、トンレサップ湖によるせき上げとそれに伴うセン川の土砂輸送能力の減少が作用していることがわかりました。

 湖(下流側)と流入河川(上流側)の洪水が出合い、浸水が深刻化すると考えられるトンレサップ湖岸においては、人々は高床式の家屋に居住し、伝統的には雨季と乾季のサイクルに合わせた暮らしを営んできました。しかし、現地調査の結果、近年は河川水を利用した乾季の稲作が広まりつつあり、深刻な水不足をもたらしていることがわかってきました。今後は、乾季の水環境と地域の住み方に着目した研究も進めていく必要があると考えています。


講演後、会場と演者で次のような意見交換があった。
会場:日本では、稲作は隣人等と協力しないと成り立たないが、カンボジアでも協力関係があるのか。
演者:共同で収穫作業を行うなど、集落内での協力は盛んである。最近では、複数の世帯でお金を出し合ってコンバインを借用する様子も見られる。
会場:湖や河川の水位変化のリズムと人々の生活のリズムの関係はどうか。
演者:稲作と漁業は特に影響が大きい。近年は、乾季にも稲作がおこなわれるようになってきており、水不足が生じている場所もある。
会場:河川の浮遊物質の粒度組成は調べたか。また、底質の調査も重要だ。
演者:堆積物の粒度分析は行っているが、河川水に含まれる浮遊物質については分析していない。
会場:雨期の飲料水はどのように確保しているか。井戸は使えるのか。
演者:雨水を集めて使ったり、共同の井戸を利用したりしている。河川水は飲料水としては使用していない。
会場:バーが発達しているのはせき上げ効果か。河川水位も上昇するのか。
演者:河川水位と湖水位の変動に伴う水面勾配の変化と、河道の平面形状が影響していると考えている。
会場:流量(の変化)を知りたい。
演者:現在、定期的な流量の計測は行われていない。


■参考文献
  • Nagumo, N., Sugai, T., Kubo, S. (2013): Late Quaternary floodplain development along the Stung Sen River in the Lower Mekong Basin, Cambodia. Geomorphology 198, 84-95.
  • Nagumo, N., Sugai, T., Kubo, S. (2015): Fluvial geomorphology and characteristics of modern channel bars in the Lower Stung Sen River, Cambodia. Geographical Review of Japan Series B 87, 115-121.
  • Nagumo, N., Kubo, S., Sugai T., Egashira, S. (2017): Sediment accumulation owing to backwater effect in the lower reach of the Stung Sen River, Cambodia. Geomorphology 296,182-192




講演2
「甑島列島における白亜系を含む東アジア東岸の白亜紀後期の海生動物相の復元」

三宅優佳(薩摩川内市甑はひとつ推進室)

 上部白亜系姫浦層群が分布している甑島列島は、非海生から海生の軟体動物化石が多産する。それらの化石の中には時代の指標種となるものも産出しており、下甑島には下部?中部カンパニアン階の地層が、中甑島には中部カンパニアン階の地層が産出することがわかった。また、調査地域内に分布する凝灰岩中のジルコンのU-Pb年代を測定したところ、上甑島に分布する姫浦層群はマーストリヒチアン階まで達している可能性がある。さらに、本調査地域内で最も多産する二枚貝化石を用いて海生動物相の復元を試みた。それぞれの種の産出層準や、生息環境を同じ堆積盆でより下位の地層が分布する天草地域のデータとも合わせて比較すると、時代における変化、収束や発散などの種における変化や生息域の変化などの傾向も伺えた。


講演後、会場と演者で次のような意見交換があった。
会場:(地層の)天草とのつながりはどうか、地質構造的に同じか(連続性があるか)。また、花崗岩の貫入の時代は同じか。
演者:甑と天草の対比はまだ充分でない。天草の方がより下位の地層から分布しているが、新生代の地層まで連続性はある。甑島列島だけで言うと、大局的には北に向かうほど上位の地層が分布している。古第三紀以降にトレンドの異なる二度の引張応力を受け、その二度目の活動のときに花崗岩が貫入したという報告がある。
会場:甑と天草の生物は太平洋系かテチス系か。また甑は、露頭がすばらしいので、ジオパーク化してはどうか。
演者:テチスよりと思っていたが、北海道と似ているところもある。テチスからしか出ない化石もあるので、今は断定できない。ジオパークはいま検討中で話もでているが、エコツーリズムが先だという意見もある。
会場:甑は一つという標語の意味は。
演者:甑島は旧4村、3つの島からなっているが、すべての島が橋でつながる機会に4村の一体化を図ろうという意味だ。支所、学校などの統廃合推進の伏線だ。
会場:熊本側との連携の意味は無いのか。熊本県は県境が不自然だが、魏志倭人伝の時代から周辺への膨張傾向が強かった影響といわれている。
演者:ジオパークに関しては、入れてもらえたら…という安易な考えもあったが、難しそうだ。いまは甑島でジオパーク活動に取り組む意味を考えると甑島ですることが大事であるとも思う。住民同士は昔は特に漁など互いに行き来が多かったらしく、どちらもとても好意的に捉えている印象。つながりが強いと思う。