開催概要:近年、高精度の地球科学情報の取得が可能となり、その表現方法についても、研究が進んでいる。新しい技術により生まれた様々な地図表現や3次元の立体表現は、地形や地質の研究を進展させている。そして、防災や博物館活動などの場面で頻繁に使われるようになった。さらに無料で公開されている情報は、多くの一般市民が利用するようになっている。そこで、本講演会では、地球科学情報の最新の表現方法やそのツールについて、研究・開発を進められている各氏に講演していただき、今後の可能性について議論した。
日時:平成30年6月9日(土)14:40~17:35
場所:弘済会館(東京都千代田区麹町5-1)
参加者数:54名
講演内容:
講演1 地球科学分野におけるオープンデータ活用と三次元造型の展望
▲芝原暁彦(地球科学可視化技術研究所・明治大学サービス創新研究所)

 数値地図やシームレス地質図に代表される地球科学系のデジタル情報は、いまやオープンデータとして広く利用できるようになっただけでなく、三次元造型機(3Dプリンタや3Dプロッタ)によって精密に模型化することも可能となった。こうした模型は博物館での導入も進んでおり、精密な地質情報を実体物として観察できる環境は日増しに整いつつある。パソコンや各種ハードウェアを利用してデジタル情報から仮想現実感を得るものをVirtual Reality(VR)と呼称するのに対して、三次元造型による地形模型のように、デジタル情報を実体化したものをRealized Virtuality(RV)と呼ぶ。また大型の地形模型上に地図や地質図を精密プロジェクションマッピングしたり、あるいは拡張現実もしくはAugmented Reality(AR)と組み合わせたりして、一つの模型から複合的な地図情報を得る技術も2017年から社会実装が進んでおり、VRとRVの両方を駆使して地質情報を可視化できる時代となった。こうした地球科学系オープンデータの歴史と、1990年代から現在までのVRおよびRV関連技術の進化、そしてそれらの博物館における応用事例と将来の展望について述べた。


講演2 カシミール3Dとスーパー地形
▲杉本智彦(フリーソフト作家)

 カシミール3Dはパソコン用の地図ソフトとして,20年以上に渡って開発を継続してきたものである。カシミール3Dは,3Dを使った立体地図の描画と,GPSのデータ処理が得意であることから,主に登山やアウトドア向けの用途としての需要が多かった。2015年に国土地理院の基盤地図5 mメッシュをもとに,欠けている部分を10 mメッシュで置き換え,オンラインで簡単に使用できるサービス「スーパー地形セット」を開始した。同時に,微地形までを読み取り可能な「スーパー地形」表現法も開発して,5 mメッシュのデータを最大限活用する試みを開始した。これにより,地理・地学関係,土木関係のユーザが増加し,TV番組「ブラタモリ」でも採用されるなどの反響があった。2016年には,iPhone/iPad向けのスマホアプリ「スーパー地形」をリリースした。カシミール3Dの機能をコンパクトにまとめ,アウトドアや登山,街歩き,実務などの場面で高細密地形データを活用できるものとして提供している。

講演3 赤色立体地図の原理とその応用
▲千葉達朗(アジア航測株式会社)

 赤色立体地図は,富士山の青木ヶ原樹海の調査の際に,遭難の危険を避け,溶岩地形を判読するために,火山地形の専門家が発案した,微地形判読のための画像である。ここでは,基本的な原理と応用事例,最近の改良について紹介したい。この画像は,DEMのみから計算で作成するもので,急斜面ほどより赤く,尾根ほど明るく,谷ほど暗くなるように調整している。1枚の地図と重なる正射画像で,老眼や単眼や色弱者でも容易に立体感が得られる。また,傾斜量と不沈度の両方をグラデーションで表現しているので,色の混色効果とメッシュサイズが大きくなる時の傾斜の平均化が相関し,地形のフラクタル性の表現を可能としている。印刷して現地調査に利用したり,GISの背景や,CGのテクスチャ画像としても利用できる。また,作成した地形模型の表面に印刷することも可能である。その後,航空レーザ計測による高解像度地形データだけでなく,大スケール日本全体の地形や地球全体の海底地形,月の地形表現や,小スケールのレーザ共焦点顕微鏡を使用した,0.1μメッシュの形状表現へも利用されている。最近の進歩として,高度と傾斜をわかり易くするために,レタデーシカラーゼブラパターンを重ねた改良を行った。