河合豊明(品川女子学院高等部・教諭)

開催日

  • 10月3日:校内での事前学習Ⅰ・本校教員による講義「浅間山火山を事例とした災害履歴と富士箱根火山の被害想定-地理総合の授業を踏まえて-」
  • 10月29日:国立科学博物館での事前学習・見学「博物館展示から鉱物資源・地球の歴史を学ぶ」
  • 10月31日:校内での事前学習Ⅱ・気象庁気象研究所 関 香織 先生による講義「火山研究の意義とその役割」
  • 11月3日:箱根大涌谷でのフィールドワーク 箱根ジオミュージアム・大涌谷自然研究路・箱根湯本地区(早川流域)
  • 11月14日:校内でのふりかえり学習・発表会

巡検場所

 神奈川県箱根町仙石原大涌谷(大涌谷自然研究路など)

参加者数

 高校生19名 引率教員3名

内容と成果

 フィールドワークの内容は,都心部に暮らす生徒にとって身近に感じる機会の少ない火山を取り上げた。その背景には,自然災害に関する生徒の意識は,より頻度の多い災害に向きやすいことが挙げられる。とりわけ,東京都心に立地する本校は,平均通学時間が約1時間と比較的広範囲から通学してきている生徒が多く,標高の低い地域や水域に面している場所に居住もしくは通学路として通過することが多いことからも,浸水による被害への関心は高いと言える。その一方で,火山噴火についてはテレビ番組で富士山噴火の危険性が紹介される程度であり,火山に対して身近さを感じる機会は限りなく少ない。そこで,火山に関して噴火の仕組みのみならず,どの範囲に,どのような影響を及ぼすか,首都圏から最も近い火山である箱根の大涌谷でフィールドワークを行い,具体的かつ包括的に火山を知ることで,我々人間生活がどのように共存しているかを理解し,生活(日常)と災害(非日常)の両面から火山について身近に感じることのできる機会を設けるとともに,どのような対策を講じることが必要であるのかを考察した。

関先生による講義
大涌谷自然研究路でのフィールドワーク

 事前学習として,2回の講義と国立科学博物館への見学会を実施した。初回の講義は,噴火の仕組みや日本に火山が多い理由,火山ごとに形が異なる理由といった,高校地理総合で学習する火山に関わる内容を振り返った上で,箱根に火山がある理由,火山灰とはどのようなもので首都圏に降り注いだ場合はどのようなことが起こるかという点を紹介した。火砕流については,高校地理総合の授業で1991年の雲仙岳の例を用いて説明していたが,より身近さを実感できるよう1783年の浅間山天明大噴火を例に用い,埼玉県幸手市で描かれたとされる文書や,東京都江戸川区東小岩にある浅間山噴火横死者供養碑を見せ,遠く離れた火山であっても被害が生活圏に及ぶことへの理解を深めた。国立科学博物館の見学では,土壌や岩石,鉱床の形成に焦点を当て,展示されているパネルの熟読を通して地球史への理解を深めた。事前学習の締めくくりは,気象庁気象研究所の関香織先生をお招きし,火山研究の意義とその役割と題した講演を行なっていただいた。事前に,第1回目の事前学習での講義内容をお伝えしていたこともあり,高校地理総合での学習内容に触れつつ,火山研究の意義と役割についてご説明いただいた。具体的には,火山研究の一環としてどのような測量・観測が行われているのか,観測をすることでどのようなことを把握することができるかといった点について,理解を深めることができた。とりわけ, 温泉水や火山ガスの分析を通した地下構造の理解という関先生ご自身の研究を通して,高校地理総合での学習と,高校化学基礎での学習が結びつく点があり,教科をまたぐという瞬間が高校生の心に大きく響いていた。フィールドワークでは,箱根ジオミュージアムを見学したほか,大涌谷自然研究路を散策した。ガイドの方による説明を受けながら実際に現場を歩くことで,噴気が近いエリア特有の植生や土壌,噴石が飛来した際の緊急措置や避難設備について理解を深めたほか,早川に設置されている堰堤の数が尋常ではなく多い理由,観測機器がどのように設置されているか,現地の地質構造や噴火の名残など,事前講座において聞いていたことを実際に確認し実感することができた。

 助成金の使途は,旅費と地形図等の購入が大部分を占めたが,助成金を利用することは,すなわち東京地学協会の後援による講座であるという表現ができることから,学校ならびに保護者へ実施の意義を説明する上で,フィールドワークを行うことへの障壁が大幅に低下したことは言うまでもない。また,学校として,気象庁気象研究所の関先生をお招きし,ご講演いただくことへのハードルが低下したと言える。高校での学習内容に触れつつ,火山を研究対象として捉えるために,どのような調査を実施し,結論を導き出すのかを直接教わることで,研究の意義に触れることができた。さらに,フィールドワークを行うことで,「実際に見ないと気づくことのできない規模感や発見がある」「授業で学んだことが,現地で見たことによって理解に落とし込むことができた」といった声が寄せられた他,現地の様子を知ることで,地球の内部構造,災害時の行政の対応,地形や地質,火山ガスの危険性,観測技術など,生徒1人1人の興味関心の幅が広がり,具体化したことが,最も大きな成果と言える。