詩人、童話作家で有名な宮澤賢治が1896年(明治29年)8月27日に岩手県花巻町に誕生してから今年度はちょうど120年。賢治は、少年時代から鉱物に興味をもち、「石っこ賢さん」と呼ばれるほど地学、特に鉱物への関心が高い少年でした。盛岡高等農林学校(現・岩手大学農学部)で土壌学や地質学を学び、在学中に盛岡周辺の地質図を作り、晩年には、石灰岩を採掘する東北砕石工場で技師を務めるなど、地学知識の社会還元にも努めました。そんな賢治の作品には地学の要素が満載です。賢治が、鉱物の微妙な色調をどのように感じ、 童話や詩・短歌作品に表現していたかを検証して行くと、賢治作品と地学は切っても切れない間柄です。

 今回の国内見学会では、宮澤賢治・イーハトーブ館での「企画展:イーハトーブの石」や、宮澤賢治記念館「特別展:賢治と石」、さらに東北砕石工場に隣接する「石と賢治のミュージアム」などを見学しつつ、賢治ゆかりの花巻や一ノ関周辺のジオサイトを観察しました。以下に、その実施概要を報告します。

日 程

平成29年2月12日(日)~2月13日(月)

参加者

14名(男性4名、女性10名)+ 案内者3名 計17名

案内者

青木正博(産業技術総合研究所/東京地学協会行事委員長)
加藤碵一(産業技術総合研究所/行事委員)
三橋浩志(文部科学省/行事委員)

平成29年2月12日(日)

 新花巻駅に14名の参加者が時間通り集合、宮澤賢治イーハトーブ館に移動。13時30分から、本国内見学会の案内者でもある青木正博氏『宮澤賢治とイーハトーブの鉱物』公開講演会に参加。講演会終了後は、「企画展:イーハトーブの石」を見学。

▲宮澤賢治イーハトーブ館。設計は古市徹雄氏(1992年竣工)
▲青木正博氏『宮澤賢治とイーハトーブの鉱物』公開講演会
▲加藤碵一氏による「企画展:イーハトーブの石」の展示物解説

 その後、宮澤賢治記念館に移動し、館内の常設展示を見学し、「特別展:賢治と石」を地元の宮澤賢治研究家の原子内 貢氏の説明などを聞きながら見学。

▲宮澤賢治記念館での宮澤賢治の生涯に関する映像資料を視聴
▲特別展「賢治と石」を見学
▲地元の宮澤賢治研究家の原子内 貢氏の説明

 「花巻温泉:ホテル紅葉館」に移動。温泉で疲れを癒やして、夕食ブッフェで満腹になった後も、ホテル内の会議室で加藤碵一氏のセミナー「地質学で紐解く『春と修羅』」でさらに宮澤賢治と地学について研鑽を深める。

▲加藤碵一氏のセミナー「地質学で紐解く『春と修羅』」
平成29年2月13日(月)

 ホテルをチェックアウト後、チャーターバスで岩手県立花巻農業高等学校内にある「賢治先生の家(移築された羅須地人協会の建物)」を見学。「イギリス海岸」で、実際に川岸まで降りて泥岩層の状況を観察。その後、羅須地人協会があった場所に高村光太郎の揮毫で建立された「雨ニモマケズ・宮澤賢治詩碑」を見学。河岸段丘上面にある場所から「下ノ畑ニ居マス」を実感。

▲県立花巻農業高校に移築された「羅須地人協会」の建物。宮澤賢治のマント姿の銅像と
▲羅須地人協会での集合写真。入り口には「下ノ畑ニ居リマス」が
▲宮澤賢治作詩「花巻農学校精神歌」の石碑。実際に歌う加藤氏。
▲イギリス海岸で露頭を観察しながら解説を聞く参加者
▲イギリス海岸の案内板前で解説を聞く参加者
▲炭化物が混じったイギリス海岸の泥岩
▲高村光太郎揮毫の宮澤賢治詩碑

 午後は一関市の東北砕石工場に隣接する「石と賢治のミュージアム」を見学。藤野正孝元館長の案内で、館内及び工場を見学。その後、地元の宮澤賢治研究家の原子内 貢氏の「岩手の風土と宮澤賢治」の講演を聴講。宮澤賢治と地学にどっぷりの2日間でした。

▲藤野正孝元館長による「石と賢治のミュージアム」の解説
▲有形登録文化財に指定された東北砕石工場の建物を見学中
▲東北砕石工場で宮澤賢治と鉱夫,の等身大人形と一緒に記念撮影

 関東から離れた東北の地で開催された今年度の国内見学会、秋に開催する予定が台風被害で延期になり、日程を2泊3日から1泊2日に短縮して開催することになりました。しかし、参加者の皆さんが、宮澤賢治の作品とそこに描かれた地学の要素に触れることで、鉱物資源のでき方、東北の自然条件に立脚した人間の営みなどについて理解を深めることができたと思います。そして、賢治の詩碑などを介して賢治作品にも触れ、賢治が愛した鉱物や東北の自然、人々の暮らしなどに想いをはせることができた国内見学会でした。

(記録:行事委員 三橋浩志)