都心1日ジオツアー:国会議事堂と江戸城の石材を見に行こう
-都心の地形を実感する街歩きとともに-

 東京地学協会は,4年ぶりに国内見学会を再開しました。再開第1弾として,2018年に開催し大好評だった『都心1日ジオツアー:国会議事堂と江戸城の石材を見に行こう-都心の地形を実感する街歩きとともに-』を実施しました*。今回の国内見学会では、日本水準原点、国会議事堂内(参議院)の石材見学、江戸城外堀遺構、皇居東御苑内の江戸城本丸天守台などの見学を徒歩でつなぐ「都心1日ジオツアー」でした。以下に、その実施概要を報告します。

日時

2023(令和5)年9月3日(日)09:00~16:00

参加者

27人(男性14人 女性13人)+案内者4人 計31人

案内者

中澤 努(産業技術総合研究所)
乾 睦子(国士舘大学)
目代邦康(東北学院大学,東京地学協会理事・行事委員長)
三橋浩志(文部科学省,東京地学協会行事委員)

* 「都心1日ジオツアー」のお知らせ(地理院地図へのリンク付き)へリンクします

 9時10分の集合時間に、国会前庭(北地区)の憲政記念館・時計塔前に27人の全参加者が集合し、案内者4名の紹介、挨拶とともに、「都心1日ジオツアー」はスタートしました。国会前庭(北地区)内に設置された日本の標高(高さ)の基準点である「日本水準原点」を見学。佐立七次郎によるトスカーナ風の近代建築設計の歴史などの解説を聞きます。また、国会前庭の先端部から江戸城桜田門を見下ろし、武蔵野段丘の高さと「桜田門外の変」の近さなどを実感しました。

日本水準原点を見学

  国会前庭から参議院別館に移動し、国会議事堂の参議院内を見学します。国会議事堂は、全国から40種類以上の石材を集めて建設されています。今では生産されていない石材もあり、「国産石材の博物館」とも言われています。参加者の皆さん、廊下や階段で、立ち止まって石材に関する解説を聞いて、直接観察します。

▲参議院の階段の内装を観察
▲中央広間の石材を観察:壁や柱は沖縄県本部町産と宮古島産の大理石「琉球石」
▲国会議事堂の外壁(花崗岩)の観察:下部は山口県黒髪島産の御影石「徳山石」、上部は広島県倉橋島産の御影石「議院石」
▲正面玄関で集合写真:国会議事堂の定番スポットです

 国会議事堂の見学を終えると、首相官邸前を抜けて、江戸市中の飲料水源の「ダム湖」でもあった溜池跡を見学。虎ノ門交差点で昼食解散し、13時20分に再集合。午後は、文部科学省の改築時に発見された江戸城外堀遺構を見学しました。「天下普請」により全国の諸大名が担当したことを示す刻印も確認しました。

▲文部科学省の旧庁舎に隣接する江戸城外堀遺構の見学

 その後、霞が関の官庁街を三年坂、汐見坂、霞が関坂を見学しながら、武蔵野台地と日比谷入り江の高低差を実感しながら移動しました。特に、江戸時代後期の安藤広重「名所江戸百景」の浮世絵と現地を比較しながら、休日の官庁街を街歩きしました。

 桜田門の「枡形門」を通り抜け、二重橋、和田倉門、大手門から皇居東御苑まで、熱中症に注意しながら移動しました。

 皇居東御苑では、三の丸、本丸へと移動しました。本丸前の中之門跡では、大型の花崗岩が隙間無く積み上がった「切り込みはぎ」を観察しました。

▲中之門跡の石垣を観察。瀬戸内海産の花崗岩と、伊豆産の安山岩で構築

 中之門跡周辺の大番所、百人番所、同心番所の建物を見学しました。さらに、本丸では、有名な松の廊下跡を経て、富士見多聞の内部も見学しました。富士見多聞内部から蓮池堀を見下ろしながら、江戸城の防御を実感しました。その後、高さ11m、東西約41m、南北約45mの大きさを誇る「江戸城天守台」に昇り、天守台を構成している石材を観察しました。

 二の丸の休憩所で暑さを和らげた後、北桔橋門から皇居東御苑を退出しました。そして、予定より早い16時に解散しました。

 今回の国内見学会、9月の第1日曜の開催ということで、熱中症のことがとても心配でしたが、皆さんの大人の対応で、無事に「都心1日ジオツアー」を終えることができました。貴族院の流れをくむ参議院の特別参観もあり、通常の見学コースを離れて、国会議事堂内の普段はなかなか見ることが出来ない石材を見学できたことは、参加者も案内者もとても勉強になりました。国内見学会、4年間の空白があったことに加え、熱中症の心配などもあり、25人の定員に27人と4年前よりも少ない応募でしたが、参議院事務局と調整の上、申し込み者全員に参加いただけました。

 江戸、東京の都心に全国から集められた石材を都心の凸凹地形を体感しながら観察し、江戸、明治、大正、昭和の各時代の歴史や風景にも想いをはせながら、残暑の厳しいなかで「都心1日ジオツアー」を開催できましたこと、紹介議員、参議院事務局など関係の皆さまに改めて感謝申し上げます。

(記録:行事委員 三橋浩志)

【参加者の声】

国会議事堂の石材を専門家が説明してくださる、という一生に一度の贅沢な機会に恵まれ至福の時間を満喫しました。現在ではとうに採鉱が終わった貴重な石材ばかりで、日本の陸地を形成する各地の花崗岩の種類の多さを実感できました。通りすがりに見ていた時は気に留めなかったのですが、石材を見てきて、外観に使われた石材量の多さに圧倒されました。シルル紀から若い第四紀の石まで、露頭を見たい!と思う石もあり大変刺激を受けました。帰宅して、以前に採取してきた議事堂に使われた岩石を改めてみて、ニヤニヤです。丁寧な資料を戴いたので、地形、地質、歴史、産業、時代等々調べるモチベーションになりました。一般者にも門戸を開いて戴き、丁寧に解説、アドバイスをして戴き、薄片資料も教えて戴いたので感謝です。できれば、マントル起源の岩石ツアーを企画して戴ければ嬉しいです。

(東京都葛飾区・女性)

【参加者の声】

「都心1日ジオツアー」では、大変お世話になりました。国会議事堂ではいろんな石材を一度に見ることができ、大変勉強になりました。内装の大理石だけでなく、外壁の花崗岩も印象に残っています。下層部分の、みかげ石「徳山石」は、全体的なゴマ塩模様の中に、カリ長石や斜長石の白い結晶がアラレ状に入っていて、ラムネ粒の入ったお菓子のようで、おいしそうでした。間近で見ることができて、良かったです。ありがとうございました。

(東京都文京区・女性)

【参加者の声】

国会議事堂の内装には、秋吉台産の大理石が、外装の下層部分には、山口県徳山産の花こう岩が使われているという説明があった。私は山口県出身なので、故郷の石材が国会議事堂の重要な部分に使われていると知ったことが、個人的には嬉しかった。外装の下層の徳山産花こう岩と上層の呉産花こう岩の色調の違いはカリ長石の色合いの違いによるものであることが観察して良く分かったが、なぜそのような違いが生じるのかについては疑問が残った。今後、自分なりに調べてみたい。江戸末期の絵図を示していただき、地形や歴史を感じながらの分かりやすいガイドツアーをしていただき、感謝いたします。

(神奈川県横浜市・男性)

【参加者の声】

日本水準原点の見学にはじまり、国会議事堂、江戸城外堀遺構、皇居東御苑まで、おかげさまで、大変充実した時間を過ごすことができました。国会議事堂については、仕事で来るものの、委員会室は衆議院・参議院とも、本館より分館の部屋数が多いため、分館に行くことが多くありました。また、国会議事堂内の議場や会議室は(音が反響しやすい)石材はなく、他方で石材が豊富な廊下は、会議前後は足早に通り過ぎていました。 今回、玄関から議場に入る、中央広間(年代の新しい琉球石灰岩、縞模様が美しいオニックスマーブル)→2階廊下(凝灰岩の日華石)→議場へのメインルートでは、多様な成り立ちの石材を観察することができ、また、廊下や階段では多様な大理石を観察することができました。廊下(特に幅木部分は濃色)に比べて、北側の階段は、足元から壁一面を明るい色の美しい石灰岩で飾られて、足元も明るく感じます。本見学会では、専門家のご指導のもとで、時間をかけて石材の観察を行うことができ、大変理解が深まりました。誠にありがとうございました。

(千葉県柏市・男性)