西アジア先史時代のフリント石材を求めて

日時
2026年7月9日(木)15:00~16:45 講演後に地学会館内で交流会(~18:00)
場所
東京地学協会地学会館2階講堂
参加者数
25名
講演内容
演者は、2003年以来、シリア北部のテル・エル・ケルク遺跡、イラン南部のアルサンジャン遺跡、イラン北部のチャハマック遺跡、トルコのハッサンケイフ遺跡等のそれぞれ遺跡周辺の地質調査を行ってきた。これは筑波大学考古学教室の西アジア文明研究の一環で、とくにこれらの遺跡で見つかる主に石器(石刃等)の産地の特定、及び石皿(製粉具)の岩相の特徴を明らかにするためである。これらの遺跡を年代順に並べると、アルサンジャン遺跡(約5万年前)、紀元前9000年ごろのハッサンケイフ遺跡、紀元前7000年ごろのテル・エル・ケルク遺跡とチャハマック遺跡となる。また西アジアの旧石器時代と新石器時代の境界は紀元前9600年とされているので、狩猟採集を生活基盤とする旧石器時代の遺跡はアルサンジャン遺跡(タンゲ・シカン洞窟)であり、その他の遺跡は狩猟採集から農耕栽培の移行期の遺跡となる。
アルサンジャン遺跡は、イラン南部の大都市シーラーズから北東約80㎞に位置する。その道程にはペルセポリスの遺跡がある。アルサンジャン遺跡は白亜紀の石灰岩洞窟(間口30m以上)であり、一種の石器づくりの“工房”であったことが窺える。また本洞窟内には世界最古級の水飲み場跡が確認されており、大勢の古代人が生活していたらしい。石器づくりは洞窟から約3㎞で露出する白亜紀放散虫岩(考古学ではフリントと呼ばれている)を利用しており、ほとんど“産地地消”の関係である。テチス海の陸棚型石灰岩堆積域とそれより深海域で堆積した放散虫岩などからなる堆積体が、アラビア半島(大陸)とユーラシア大陸との衝突で変形・変位し、現在は近接した関係でザグロスの一部をなしている。
テル・エル・ケルク遺跡やチャハマック遺跡から産出する石刃は、遺跡周辺に露出する石灰岩層中に発達した珪質ノジュールを利用している。前者の遺跡では、石灰岩が風化して取り残された珪質ノジュールを、また後者の遺跡では河川礫である珪質ノジュールを利用している。ハッサンケイフ遺跡では、穀物や肉、魚、ナッツ類などの油分の多い材料の加工する(Ishida et al., 2025)ためにミクライトと砂質石灰岩の石皿を用いている。本遺跡は石灰岩台地を流れるティグリス川現河床から5m内外の高さに位置している。現在では、その下流側に建設されたイイリス巨大ダムにより水没してしまった。
回覧資料

ザグロス南部アルサンジャンにあるタンゲ・シカン洞窟(A5-3)から出土した石器(最古の出土Layerは6万~7万年前)と同岩質の放散虫岩(産地は洞窟から数3㎞の距離)
書籍4点
- 『西アジア文明学への招待』 筑波大学西アジア文明研究センター編 悠書館(2014)
- 『テヘランのすてきな女』金井真紀 晶文社(2024)
- 『アフリカを脱出した人類最初の奇跡』久田健一郎編著 愛智出版(2016)
- 『最新考古学でわかる古代文明㊤』 関雄二編著 NHK出版 (2026)
