「西アジア先史時代のフリント石材を求めて」
東京地学協会では,地学研究の振興と親睦を図るため、平日午後、地学会館(千代田区二番町)の講堂で、科学者や技術者に地学・地理にまつわる講演をお願いし、終了後は簡単な懇談な場を設けています。「地学クラブ」は協会設立当時からのサロン的雰囲気を引き継ぐ談話会です。一般の方々も参加でき,参加無料、事前の登録も不要です。お気軽にご参加ください。
日時
令和8年7月9日(木)15:00~
場 所
東京地学協会地学会館2階講堂(東京都千代田区二番町12-2)
交通
- 東京メトロ麹町駅5出口を出て左へ徒歩1分
- JR市ヶ谷駅から徒歩7分
- 四ッ谷駅から徒歩9分
- 東京メトロ半蔵門駅より徒歩9分
演題
西アジア先史時代のフリント石材を求めて
講演者
久田健一郎(地学オリンピック日本委員会:筑波大学西アジア文明センター研究員)
要旨
演者は、2003年以来、シリア北部のテル・エル・ケルク遺跡、イラン南部のアルサンジャン遺跡、イラン北部のチャハマック遺跡、トルコのハッサンケイフ遺跡等のそれぞれ遺跡周辺の地質調査を行ってきた。これは筑波大学考古学教室の西アジア文明研究の一環で、とくにこれらの遺跡で見つかる主に石器(石刃等)の産地の特定、及び石皿(製粉具)の岩相の特徴を明らかにするためである。これらの遺跡を年代順に並べると、アルサンジャン遺跡(約5万年前)、紀元前9000年ごろのハッサンケイフ遺跡、紀元前7000年ごろのテル・エル・ケルク遺跡とチャハマック遺跡となる。また西アジアの旧石器時代と新石器時代の境界は紀元前9600年とされているので、狩猟採集を生活基盤とする旧石器時代の遺跡はアルサンジャン遺跡であり、また農耕栽培を生活基盤となる新石器時代の遺跡は、その他の遺跡となる。
アルサンジャン遺跡は、イラン南部の大都市シーラーズから北東約80㎞に位置する。その道程にはペルセポリスの遺跡がある。アルサンジャン遺跡は白亜紀の石灰岩洞窟(間口30m以上)であり、一種の石器づくりの“工房”であったことが窺える。また当該洞窟内には世界最古級の水飲み場跡が確認されており、大勢の古代人が生活していたらしい。石器づくりは洞窟から約3㎞で露出する白亜紀放散虫岩(考古学ではフリントと呼ばれている)を利用しており、ほとんど“産地地消”の関係である。テチス海の陸棚型石灰岩堆積域とそれより深海域で堆積した放散虫岩などからなる堆積体が、アラビア半島(大陸)とユーラシア大陸との衝突で変形・変位し、現在は近接した関係でザグロス山脈の一部をなしている。
テル・エル・ケルク遺跡やチャハマック遺跡から産出する石刃は、遺跡周辺に露出する石灰岩層中に発達した珪質ノジュールを利用している。前者の遺跡では、石灰岩が風化して取り残された珪質ノジュールを、また後者の遺跡では河川礫である珪質ノジュールを利用している。ハッサンケイフ遺跡では、穀物や肉、魚、ナッツ類などの油分の多い材料の加工する(Ishida et al., 2025)ためにミクライトと砂質石灰岩の石皿を用いている。当該遺跡は石灰岩台地を流れるティグリス川河床に位置している。現在では、その下流側に建設されたイイリス巨大ダムにより水没した。
