気象庁発表によれば、2016年4月16日1時25分ごろ、熊本県西原村・益城町付近を震央とするマグニチュード7.3、最大震度7という強い地震が発生した。それに先立ち14日21時27分ごろにもこの「本震」とほぼ同規模の「前震」が発生した。マグニチュード5を越える「前震」は合計5回に達した。ほぼ同規模の「余震」は4月29日まで14回を数えた。このような推移は観測史上前例がないことであった。これらの地震と誘発された地震の震央は広く見ると別府付近から阿蘇カルデラの西北縁を通り、西原・益城に至り、方向をやや変えて八代に至る活断層にほぼ沿って分布していた。これらは内陸の深度10km付近で起きた横ずれ断層とそれに関連するものである。阿蘇・久住・鶴見などの火山体に隣接していることも注目される。

 このようなプレート内の浅発地震については、場所と時間と発生規模について社会が期待しているような実用的予知は現状ではほぼ不可能であるものの、研究の進展がいっそう期待されている。大地震を記録している活断層の存在や実態は調べれば分かるという実績がある。内陸浅発地震の場合、地震時の地層の変位が蓄積し断層などの構造をつくり、地表で断層地形を作っているからである。地質学・地形学で知ることのできたことは、ある程度の周期性をもって繰り返し同じところ(活断層)で地震が発生してきているという地震の履歴である。その「周期」は数百年から数万年以上に及び、人の生活のタイムスケールではないものの、その再来時期は現実の社会的課題となっている。

 地震発生の周期が明瞭で短く、かつ最後の発生からの経過がその周期に近い場合を除いて、活断層は地震予知の対象というよりは、その土地が持つ自然特性の一つであると理解される。歴史と共に人は集中して住むようになり、公共的インフラ財も集中的に蓄積されるようになってきている。電力や水の供給システム、食糧や燃料などを配達する交通・流通システムなどは、高度化すればするほどその破綻は人の生活に大きな被害をもたらす。特にその破壊が広域に影響を与える原発や大型ダムなどについては、その立地点の自然特性を十分に理解し、臆病すぎるほどの配慮が求められよう。地球の歴史では本質的に「地変」は繰返し起きており、未知なことはあり得ても、言訳となり得る「前代未聞」はない。

 自然を大規模に変えることはできない。普段は地域の特性を有効に利用すると共に、その特性の他の一面である激しい地変に対して適切な防災・減災を講じるために、特に大規模な土地プランニングなどに関わる専門家は土地固有の特性を十分に理解しておくことが必要であろう。

 災害発生という事態に際して、地震という自然現象の実態やそれによる災害の状況を正確に記録し、分析しておくことは地学に関わる我々として、将来に対する社会的責務であると理解している。このような趣旨から東京地学協会は「熊本地震」およびその被害に関して行なわれる研究に対して総額約4百万円規模の助成を行なうことにした。  政府は5月10日、熊本地震による被害を「大規模災害復興法」に基づく「非常災害」であると閣議決定した。50人におよぶ死者に対してご冥福を祈るとともに、1500人もの負傷者に対してお見舞いの言葉を述べたい。また今回の地震で住む家を失ったり、被害を受けた方々、一時は10万人にも達した避難者に対しても同情を禁じ得ない。一日も早い復興と本来の自然豊かな熊本に戻れるよう願っている。

(これは会長としての個人的メッセージであり、文責は野上道男にある)

2016年5月23日 公益社団法人東京地学協会 会長 野上道男