2018年6月28日以降の台風7号や梅雨前線の影響によって、広島県などを中心に西日本に斜面の崩壊や河川の氾濫などによる甚大な豪雨災害が発生しました。被災された方々にお見舞いの言葉を差し上げるとともに亡くなられた方々に心から哀悼の意を表します。
このような自然現象に起因する災害は、「地」に関わる当協会の重要な研究分野です。今回の災害に当協会としてどう取り組んでいくか、ここに会長としての私見を述べさせていただきます。
自然現象という観点からみれば、山には谷が刻まれ、急な斜面ができます。そこでは基盤岩石の風化によって生じた層が次第に厚さを増し、土壌層が発達して、植生に覆われます。しかしこの斜面物質は豪雨による地中水の増加によって、いずれ一挙に崩落します。小さな谷では崩落した土砂は土石流となって一気に流下し、さらに大きな川では洪水で下流に運ばれ、氾濫・堆積して平らな土地が作られます。「地」のながい時の流れから見れば、「地」のどんなできごとでも未曾有(いまだかつてあらず)ということはありません。それに比べれば「人」の時間スケールは遙かに短いのです。したがって「地」の上に生きなければならない「人」はその場所ごとに異なる「地」の特性を知り、「地」の恵みを生かし、時には牙をむく「地」の悪魔性を避けなければなりません。
「地」の成り立ちを知ることは、研究者はもちろんのこと、多くの方々、特に地域の住民や行政関係者にとっても関心の高いことです。そして「地」の成り立ちの研究を通じて知りえた最新の知識を、特にその場所ごとの「地」の悪魔性を、広く社会に理解してもらうことは、研究者の責務と考えております。このような意味で当協会は、設立の目的として定款に掲げた「地学の進歩と普及」の一環として、自然災害とその被害の防止・軽減に関する研究も進めております。
今回の豪雨災害にあたり、当協会は、「人」にとっては突発的にみえる「地」の変化とそれによる被災の実態をさらに明らかにする調査・研究を対象に、総額400万円規模の研究助成をすることにしました。特に、災害を避け、あるいは軽減するために、「地」の情報として何が必要か、どのようにそれを伝えるべきか、など災害の事前事後の情報伝達についての調査・研究も助成の対象に入れたいと考えております。
私たち東京地学協会は、今回の研究助成によって、将来に残せる知識を蓄積・普及することで、いささかでも今回の被災者の方々に報いたいと考えております。研究助成に関する詳しい情報は当協会の該当ページをご覧ください。
2018年7月27日 公益社団法人東京地学協会 会長 野上道男